人と自然のいのちをつなぐ森

人と自然のいのちをつなぐ森
                   一般社団法人 日本風土文化推進機構会長
                   同志社大学名誉教授 文学博士 廣川勝美
                            
わが国は、山地が国土の62%を占め、温暖多雨な気候のもと、多種多様な植物を育む森林が広がっています。この風土に暮らす私たちは、山や森、自然に支えられて、季節と折り合いながら、生活を営み文化を築いてきました。
私たちには、自然のうちなるものとして、人とすべてのいのちのつながりを重んじる文化や精神があります。私たちは、人間の側から自然を見るのではなく、自然の大きな循環の中で生きるということを「生活の知恵」としてきました。
豊かな森林は、暮らしや物づくりをもととする地域社会の文化や産業の基盤です。しかし、近年は、生活様式の変化により森林資源の必要性は著しく低下しています。そのために森林を基本とする自然と文化は見失われようとしています。
わが国の風土は、季節の循環とそれに対応する山野の生命力の循環を特質としています。草木の循環があり、水の循環があり、そして、その一切を担う森林の循環があります。森林の循環は自然と共に生きる人の暮らしの根源です。そのシンボルが、人と自然のいのちをつなぐ「美しいふるさとの森林」です。そこには、長い年月にわたる人びとの思いや願い、祈りがこめられています。
国土の荒廃が急速に進む中、私たちの誇るべき伝統を生かし、人間の都合だけではなく、自然と人との安定した関係、永続性あるかかわり合いを考えることが求められています。安全で豊かな生活を支える自然の力を培うところに、真の意味の「ライフ・ライン」を基本とする「地域社会」の再生があるといえるのではないでしょうか。